「電車の運転士になるには②」

「発令」

以前の記事で、電車の運転士になるための学科試験について説明をしました。

この一週間は休日も仕事だったのでブログの更新が出来ませんでしたが、ようやく一段落ついたのでブログ再開といきましょう。

さて、晴れて学科講習を終えた研修生は「運転士見習」という職制で、各運転職場に配属される。

この時配属された職場が事実上、これから晴れて免許を取得した後も、自分が運転する線区になるため、運転したい希望の線区がある人にとっては非常に重要な人事となる。

現業職採用の人であれば、百歩譲って数年後に職場異動があり、違う運転職場に異動することも出来る。それに加え、JR東日本・東海・西日本であれば新幹線の運転士へステップアップすることも可能となるので、自分が運転したいと思っていた線区の運転職場に配属されなかったとしても、まだ将来に希望を託すことも可能だ。

しかしながら、総合職の場合、運転士は現場で一般社員として働く最後の職場と考えていい。

つまり、数年後に他の運転職場に異動するなんていうことはなく、ここで配属された職場が自分にとって唯一、運転可能な線区になるので、「俺は運転出来りゃどこでもいいっす」という人以外は、結構重要な発令になるわけだ。

とさやの場合、全く希望していた線区とかけ離れていた職場に配属となり、最初耳を疑ったが、結果最高に楽しい職場・仕事だったので、結果オーライだったのを覚えている。

「実技講習」

さて、発令を受けて、実際に職場に配属されて、いよいよ実際の電車を運転出来るかというと、それはそんなに甘くない。

そもそも、電車のダイヤは運転士見習いのために特別な電車が用意されているわけではない。

つまりは、お客さまを乗せている営業列車で運転士の資格を取得する実技講習が行われているわけだ。乗客の立場からしたら「おいおい、免許もないやつの運転に命預けたくないよ」と思われるかもしれない。そもそも、無免許運転可能でいいの?というそもそもの疑問もあろうかと思う。

しかし、そこは心配ご無用。車掌の時同様、運転士見習いが晴れて実技講習を終えて、国家資格である、動力車操縦者運転免許証を取得するまでは、指導運転士の同乗のもと実技講習が行われる。イメージは車の免許で隣に教官が乗っていて、危ないと思ったらいつでもブレーキをかけられる状態だ。なので、安心して乗ってほしい。

ちなみに、試験は本番一発勝負。試験官は国土交通省(実際は委託を受けた同社の試験官が多い)の試験官が同乗して営業列車で行われているのだ。これに落ちたらスケジュールの関係でその年度の運転士免許取得は断念しなくてはならない。

さて、話を戻すが、まず配属されたら、指導運転士が運転する電車に同乗して、担当する線区の曲線(カーブの事)の制限速度、駅と駅の間の運転時分、分岐器の制限速度、信号機の建植位置、その信号機にはどんな種類の現示が出る信号機なのか等、非常に多くの線区の特状をすべて覚える。ここに妥協はなく、本当にすべてを覚える。

車の運転で、今日は例えば東京から千葉の館山までドライブしよう!となったとき、「次のカーブの制限速度は50キロで、その次の交差点を超えてからは40キロだ」なんていちいち覚えているだろうか。普通覚えていないはずだ。それに、車社会ではいいか悪いかは別として、制限速度以上で走っているケースもあるだろう。とさやはスピードオーバーしないけど(笑)

しかし、鉄道の世界で制限速度オーバーは絶対に許されない。それはなぜか。答えは簡単だ。脱線の危険性があるからだ。

皆さんは2005年4月に起きたJR福知山線電車脱線事故を覚えているだろうか。あの事故は端的にいうと、曲線の制限速度を大幅超過したために電車が脱線転覆したのである。

当時の運転士は当該曲線の制限速度は当然わかっていた。しかしながら、遅れを取り戻そうとしたのか、曲線の前の直線を通常運行で走る速度より速い速度で運転し、曲線の直前でブレーキをかけた模様だ。

ここにも、鉄道の特性が表れていて、例えば車だったら現在時速100キロで走っていて、60キロまで落とそうと思ったとき、ブレーキを強く踏めば、そう長い空走距離なく速度を落とせるであろう。しかし鉄道は、車輪とレールが双方金属であるため、摩擦が少ない。これを摩擦係数と呼ぶのだが、簡単にいうと滑りやすいのだ。しかも、鉄の塊である電車はとてつもなく重いので、ブレーキをかけてもすぐに速度を落とすことが出来ないのだ。

そういった特性上、常に先の制限速度を覚えていなければ、安全に電車を運転することは不可能となる。これが、全ての曲線、分岐器の制限速度を覚えてなくてはいけない理由なのである。

これが、最初はとにかく大変だ。自分が担当する線区の距離が200キロあったとすれば、往復で400キロ分すべて頭に叩き込まなければならない。それが、複数線区担当となれば、もう覚えることは膨大な数になる。

また、信号機の建植位置を覚えるのも非常に重要で、首都圏などは複数の線区が並走している区間がある。ここで、どの信号が自分の線区を示しているかをわかっていないと、隣の線区の信号を見て、信号無視をしてしまう危険性があるのだ。

まずは、これらの線区の特性をすべて覚えるまでは運転席に座ることは出来ない。

覚えるまでひたすら指導運転士の隣で線路見習いを繰り返すことになる。

ただし、試験日までの実技講習期間は決められており、規定日以内に決められた内容をクリアできなければ、試験を受けることすらできない。

そのため、運転士見習いは必死である。

とさやは、頭はそんなに良くはないが、何かを運転するというセンスが昔からずば抜けてよかったために、そういうのも苦労なく覚えられたが、一緒の職場に配属された同期はとっても苦労したのを覚えている。

これをクリアすることで、指導教官が隣にいて、いつでも非常ブレーキをかけられる状況でありながらも、憧れの電車の運転席に座ることが出来るのだ。

さて、次回は実際に運転する段階に入ったところをお話することにしたい。

「まとめ」

このように、運転士になるには、まず膨大な知識の詰め込みが必要なのだ。

でも、心配しないでほしい。総合職で入ることが出来たなら、絶対覚えることは出来る。

問題は実際に運転をするようになってから発生することが多い。

次回はその辺も含めてお話しよう。

それでは、また。